2.断定は避けます。

生物の世界は謎だらけです。果たして『正解』と云うものがあるのか、私はいつも疑問を感じています。
自然科学、特に生物の世界では実験を通じて検証可能な『事実』と、色々な知見から類推して得られる『(学)説』が混在しています。

例えば「植物が水と空気中の二酸化炭素を材料に、光のエネルギーを利用してブドウ糖を生合成する」ことは、それぞれの材料に印(しるし)をつけ、生成されたブドウ糖にその印が取り込まれていることで実証することが可能な厳然たる『事実』ですが、
「カブトムシは、エサやメスを得る競争に打ち勝つために大きな角を持つようになった」というのはあくまで『推測』に過ぎません。確かに大きな角を持つ個体は餌場でも堂々と他を圧倒しているし、メスをめぐる争いでも有利なように見えます。でも厳密に云えばこれは「大きな角を持ったことによる結果」であって「大きな角を発達させた理由」ではないはずです。

カブトムシやクワガタの後翅(飛ぶための羽)は、小さな個体ほど体長に比して長くなるそうです。このように小柄なオスは、相対的に大きな羽を持つことで飛翔力、すなわち大きな移動力を持ち、生存域の拡大や種の保存に大きく貢献している(らしい)との知見があります。そう云われてみれば良く似た生態のカナブンでは、競争はもっぱら飛翔による移動性に寄っているようにも思えますよね。
それに樹液酒場で立派なオスがメスを独占しているかと云えば、事実は決してそうではありません。スミの方で盛んにメスと番って(つがって)いるのは、意外にも小柄なオスのことが多いようです。
これら一つをとっても、必ずしもケンカに打ち勝つことだけが種の繁栄に貢献するわけではなく、人から見た「競争に勝つと云う目的」と思えるものを、カブトムシが大きな角を持った唯一無二の「理由」と断定することには躊躇せざるを得ません。

人は検証が不可能な自然現象を目前にした時、それを「合目的的に」(目的に適っていると)捉えてしまう癖があるように思えます。そして、それがあまりに精緻に目的を果していると感じられる時に、半ば畏怖に近い驚嘆をもって「神秘」と名付け、責任(?)を神様に押しつけてそれ以上の検証を放棄してしまう。
そうやって本質は棚上げしておいて、権威ある者の見解をただ「合理的と思われる」「学術的に認められている(ようだ)」というだけの理由で特に疑うこともなく『事実』として受け入れてしまう傾向があるように思われます。

いやいや、それならまだ「合理的と思われる」等と云う本人による判断が含まれているからマシと云えるでしょう。昨今はただ盲目的に「書籍に書いてあった」「TVでやっていた」「誰々がそういっていた」のだから『正しい』、と考えてしまう例が多いように思えます。そして驚くべきことにその『権威』のひとつとして、個人が主催するホームページまでもが上げられるようになってきている。

卑近な例を挙げるなら「クワガタの幼虫は共食いをする」「カブトの幼虫が土の上に出てしまうのは多頭飼育による酸欠が原因」「カブトムシのメスは40個ほどの卵を産む」「カブトムシのオスは交尾をすると死ぬ」「近親交配をすると奇形になる」「スイカを餌にすると下痢をして早死にする」。。。etc
誰もが一度は耳にしたことがある「定説」かもしれません。でもこれを本当に実証した人がどれくらいいるでしょう?おそらく論理的な形での検証がなされたことはほとんどなく、通常の飼育中に生じた数回の経験から推測したものが多いのではないでしょうか。あるいは実際に経験したことさえなく、書籍やHPの受け売りであることも多いかも知れません。

生き物を扱う以上、決して『絶対』はないのだというのが私の持論です。だから、
断定は『事実』や『学術的に認められている(と思われるもの)』限られたことにのみに使用し、自分の経験は「〜だったことがあります」「私の経験では〜」など、単なる伝聞の場合なら「〜と云われています」「〜のようです」等々と使い分けをするつもりでいます。

「〜だと思う」「〜ではないか」「〜かもしれない」。。。私の言葉はとても頼りなく思えることでしょう。もっと明確な答えが欲しいと感じられることと思います。でもそうするかわりに、私はそう考えた根拠についてをなるべく多くをお伝えしたいと考えています。それを理解していただければ、何か不測の事態や疑問が生じた時に「自分の考えで対処ができる」ようになるはずだと思うからです。

私の言葉はどれもこれも屁理屈の多い冗長なものになるに違いありません。初心者の方にとっては、多少不確かではあっても一般的な通説を「○○だ」と断定してもらったほうが安心だし理解しやすいであろうことも承知しているつもりです。
でもそれが私のスタンスであり誠実さでもあると考えています
それらをご理解の上、どうかご寛容な気持ちを持って接していただけますよう、お願い申し上げます。

(、とまぁ、ここまで読んでくれたとすれば、あなたはすでに相当ご寛容な方だとは思うのですが。。。(^_^;))

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