2005/8/27(土)  晴れ

台風11号が、26日未明に強い勢力のまま千葉県に上陸した。時速20Kmと云うゆっくりとした速度で北上したために、静岡・箱根などに記録的な大雨をもたらし、また各地に強い風が吹き荒れた。
台風一過。天候は一気に回復したが、気がかりなのはフィールドの様子だ。谷津田ではそろそろ稲刈りが始まるはずだが、大きな被害が出ていないといいのだが。。。
とにかく、気にしていても始まらない。とりあえずは天竺に向けて車を走らせた。。。

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ポイント 天竺

谷津田に向かう山道は、ところどころ渓流の川底のように抉られている場所があるが、特に大きな爪痕は見られない。少し安心しながら生き物たちの姿を探すと。。。
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ヤブキリのおじさんや カマキリ、
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桑の葉陰にはキボシカミキリ クズのツルにはナナホシテントウ
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自信はないけど、ホシハラビロヘリカメムシ 羽が生え揃わず、お腹が不気味なハネナガイナゴ? の幼虫
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綺麗に巣を張りなおして食事中のジョロウグモや、 緑のビロードの腹部が美しいサツマノミダマシ?(クモ)
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キマダラセセリ。一部の地域では生息数が激減していると云うが、ここでは健在。 林道から少し奥まった日陰には、サトキマダラヒカゲが無数に集まっていた。
心配するまでも無く、どうやら雨風を避けることの出来る昆虫たちは元気なようだ。

気が付くと、足元の植物たちはすでに秋の気配を漂わせている。。。
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細長い花序に淡紅色の可憐な花を疎らに付けているのは、ヌスビトハギ。つい美しい花の部分ばかりを写してしまうが、後日同定するために全体像、特に葉の形状や付き方を撮影しておくべきだと最近は痛感。今回も右側の不明確な写真の方が結果的には役に立った。
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雑木林の林床には必ずあるヤブランも開花の時期を迎えたようだ。冬になると房いっぱいに黒紫色の光沢ある種子をつける。近縁に、良く似たジャノヒゲがあるが、ともにユリ科の植物だ。
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この時期に、日陰で鮮やかな果穂を2本伸ばすのはミズヒキ(タデ科)。雑木林の林縁でごくごく普通に見かける。紅白の水引を思わせることからついた名前だろう。
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こちらは、金の水引を思わせる?キンミズヒキ。よく見かける花だが、いざ同定となるとかなり難航した。結局、イチゴなどにも似た葉の形からバラ科と推測し、たどり着くことができた。
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ヘビイチゴなどに似た黄色5弁の花を咲かせた後、先端がカギ状に曲がった実を付けるダイコンソウ。上のキンミズヒキと同じバラ科の植物だと聞くと、葉などは何やら似て見える?かな?
たどり着いたいつものクヌギに近づくと、無数の蝶が飛び立ち驚かされた。その数、十数頭は下らないだろう。今日、林道脇の木陰でも良く見かけたサトキマダラヒカゲの群れだ。樹液にまだはり付いたままのものもかなり多い。
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メクレの下に気になるドルクスの影が見える。今日は脚立を持ってきていない。光学12倍ズームで撮影を繰り返し、いちいち確認。も、もしやヒラタじゃなかろうか!? 、、、なんてはずもなく、体を翻した一瞬を捉えたこの写真で推定45mmのコクワと判明。それにしてもサトキマダラヒカゲが邪魔で撮影がままならない!
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どうやら、樹液に群がる蝶をうっとおしく感じているのはノコも同じようだ。オオアゴで何度も挟もうと格闘していた。それでも怯まないサトキマダラヒカゲ。オオムラサキもそうだが、蝶は案外、闘争心が強いようだ。 すっかりカブトムシが姿を潜めたこの時期、再びノコが活躍し始める。特にこのクヌギはシーズン中からノコの多い樹だ。おそらく他の採集者も来ていないはずなので、いつまで彼らが活動するのかを見届けてみたい。
050827_108.jpg (30155 バイト) クヌギの根元にある、常緑の多年草(カントウ)カンアオイの葉。春の女神ギフチョウの食草であることと関連付けて、カンアオイを「手入れされた雑木林でないと育たない」としているHPなども多いが、明るい林床で見かけることはあまりない。むしろ照葉樹林との境など、少々薄暗い林床に多いように思う。
ここは正にそんな環境だ。

ところで、俺は野生のカンアオイの花をまだ見たことが無い。秋から春にかけて、あの独特な花を求めて必ず訪ねてみよう。
さて、クヌギの無事も確認し、あとの気がかりは、多くの命を育んでいる谷津田とその周囲を廻る水路だ。少し足早に、でも色々と引っかかりながら(^_^;) 通いなれた山道を進んだ。
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と、斜面のヌルデの樹に、なにやら見慣れぬ実が成っている。おぉ!これがうわさに聞く「五倍子(ごばいし)」か!? これは実ではなく、ヌルデシロアブラムシによる虫えい(ちゅうえい=虫こぶ)で、タンニンと云う物質を実に70%も含むと云う。タンニンは、「皮をなめす」「薬」「防水性の染料」、変わったところでは「お歯黒に利用する」など、非常に有用な植物由来の物質で、かつては生活の必需品であった。
「五倍子」は『ブシ』とも読み、例えば「キブシ」「ヤシャブシ」など、タンニンを多く含む樹木の名の由来にもなっている。かつての里山では、おそらくこれら身近な植物からタンニンを採取していたのだろう。

ところで、タンニンはカシワやクヌギの樹皮にも多く含まれており、明治時代には十勝平野のカシワの大原林がタンニン採取のために壊滅的に伐採されたと聞く。ある狭い範囲のクヌギの樹皮が、ことごとくボコボコ(メクレとは異なる)になっていて、枝打ちの跡にしては不自然に思えることがあるのだが、これはタンニン採取のために樹皮の一部が繰り返し剥がされた痕跡だと考えることはできないだろうか?
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ヤマトシリアゲ。那須やデコ平でも見かけたが、意識さえすれば決して珍しい昆虫ではない。
何となく、マントを羽織った冷酷な悪役だとかエイリアンと云った感じのする、不気味な昆虫だ。
派手な彩色のカノコガ(そっぽを向いて交尾中)。白く見える半透明の模様を「鹿の子」と見立てたのだろう。幼虫はタンポポやシロツメクサなどを食べる里山で普通に見られる昼行性の蛾だと云うが、はじめて見た。
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山道沿いの斜面を覆っていたヤマブドウが遅い開花を迎えていた。甘酸っぱく熟した黒い実はことのほか美味しく、また早い時期から美しく紅葉する。秋の待ち遠しい植物だが、ヤマブドウは雌雄異株。残念ながらこの花は雄花で、この樹に実は生らない。
そうこう寄り道をするうちに、やがて視界が開け、谷津の水田が目に飛び込んできた。
予想していた通り、豊かに稔った稲穂がことごとく根こそぎ倒れているのが痛々しい。うねるように描かれた模様が、台風の巻き起こした風の一様でないさまを物語るようだ。。。
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050827_140.jpg (30644 バイト) 心配はしたものの、水田は台風到来以前に既に落水(水を抜く)されており、今回の台風でも倒れて水に浸かってはいないようだ。この様子ならば数日以内に問題なく収穫されることだろう。

「ここは水が良いからお米も美味しぃんよ。 と、作ってる自分らは思ってるよ」 と少し照れたように話してくれた地主のオバちゃんの顔が思い起こされた。
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谷津田の周囲に残されていた爪痕。根垂水を田に引き込むために土中に塩ビの管が通されていたらしいが、土が流され剥き出しの無残な姿に。 棚田の土手も、こうして崩れている場所が散見された。山間(やまあい)の谷津田を維持することは、大変な苦労を要するのだろう。
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もうひとつの気掛かりは、水田の周囲に張り巡らされていた水路の様子だ。
水草が繁茂し、イモリをはじめとした両生類や水生昆虫・サワガニ・ホトケドジョウ・カワニナなどがいつでも観察できた「土を掘り下げただけの自然の水路」はおそらく崩れて埋まってしまったのだろう。新たに掘り起こされ、澄んだ水が流れてはいたが生き物の姿を見ることは出来なかった。。。来年、飛び交うホタルの姿を再び見ることが出来るのだろうか?
イネの被害は思った程ではないようだが、谷津田周辺にいた多くの生き物たちは一体どうしているのだろう?少し丹念に周辺を探ってみよう。。。

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