2006/6/10(土)  晴れのちくもり

先日のホタルの写真を見た子供たちからクレームがついた。自分たちも連れて行って欲しいと云うのだ。子供らが物心ついたここ数年、自分自身も憧れであったホタルの乱舞を見ようとネットで色々と調べ、いくつかの場所に出向いていたが、云われてみれば確かに今年は連れて行っていない。。。

最初の2年間(2001〜2002年)は千葉の泉自然公園、3年目〜5年目はホタルの里として有名な夷隅郡大原町。どちらも乱舞とは云わないまでもかなり沢山のホタルが観察できて感動したのだが、いかんせん人の数が多い。算数の記号で表せば?まちがいなく「ホタル<<<<ヒト」(^_^;) 

例え数多くはなくてもいいから静かな場所でのんびりとホタルの光を眺めたい、と願っていた俺にとって、昨年見つけた天竺はまさに理想の場所だった。そしてそこに通い詰めているうちにひとつのことに気が付いた。
それは意外にも、「ホタルが生息するのに特別な保護は必要ない」と云うことだ。

都会に住む者にとって、ホタルは豊かな自然環境だけが育むことのできる憧れの存在だ。「清らかな水」「護岸されない水路」「漆黒の闇」「農薬の未使用」・・・ そんな場所は今や特別な場所にしかありえないと思うだろう。しかし、丘陵地帯にあまた点在する小さな「谷津田」は、一年を通じて滾々(こんこん)と湧き出る根垂水(ねだれ)が汚染とは無縁の清流を保ち、規模の小ささから圃場(ほじょう)整備を免れていることが多い。周囲を急な斜面林で囲まれた谷には、ホタルを惑わす人工の光はひとつだになく、また常によどむことなく流れる水路では、多少の農薬散布も水中の幼虫やカワニナに大きな影響を与えていないように思える。

そこで、「谷津田」「土の水路」「カワニナ」の3つをキーワードにホタルがいそうなポイントにも気を配ることにしたのだが、それを満たす場所はいくらでもあった。けっして特別なものではない。多分そのどこであっても、多い少ないの差こそあれきっとホタルを見ることが出来るのだろう。
やがて見つけた今回の場所は、それらの条件が際立っていた。それらから、ホタルが多く発生するであろうと予想していたのだが、果たして、今まで見たどこよりも多くの飛翔を見ることができたのだ。

そっか〜、ホタルが見たいのかぁ〜   じゃ、父が見つけた楽園に、お前たちもついてきなさい!(^^ゞ

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千葉県某所

谷津田の最奥部にあるあの場所へは、車を止めてから大人の足で30分程もかかる。とてもじゃないが、夜中に子供を連れて行こうと考える場所ではない。。。と思っていたのだが、先日のキムシンとの夜行でかなり無理をすれば車でも突っ込んで行けることが判明、昼間の野球で疲れて眠る子らを乗せて慎重にハンドルを握った。
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ここでのホタルは広い範囲に散逸することなく、発生源である水路から離れることがない。斜面の樹木に無数に止まって明滅するために、実際の個体数以上に多くのホタルがいるように思える。身の回り5m四方に数十匹〜100匹程度だろうか。。。子供らはその幻想的な景色を十分楽しんだ後にホタルを空に放っていた。おそらく、来年も再来年もまた、同じ風景を見ることができるだろう。
本当なら、今日のフィールドノートはこの楽しい気分で終わるはずだった。ホントなら。。。

帰り道。。。

ホタルを見て一気に元気付いた子供たちの熱を冷ますため、コクワでも捕まえることにしよう! と云うことで向かった先で、無残な状況を目撃することになった。。。
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これら樹皮が剥がされているクヌギは、5月31日にミヤマを目撃した場所の樹だ。。。
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ここは、右の写真(5/31撮影)でもわかる通り、どう考えても30mm程度のコクワしか潜むことのできない小さな樹皮の浮き上がり部分。樹液さえ出ていない。
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こちらは、内部から樹液の発酵臭を強く漂わせていた小さな樹皮メクレ(右写真、6/6撮影)。直径15mmあるかどうかだ。
この他いちいち写真は撮らなかったが、わずか数本のクヌギに同様の傷が10箇所以上。。。
今までも色々な場所で散々こういった行為を見てきた。
しかし今回のこれは極めつけの意味のない行為だ。写真を見れば明らかなように、剥がされたのはいずれも直径2cmにも満たない、メクレとも呼べない「樹皮の浮き」だ。こんなものを剥がしていったい何を採集しようと考えたのか?まさかオオクワやヒラタが潜んでいると考えた訳ではないだろう。ノコやミヤマは(もちろんカブトも)、狭い樹皮メクレの下には潜行しない。周囲の環境を考えれば、小さなコクワかスジクワガタが関の山だと思い至らないのだろうか?
さらに云えば、ここは子供がよそから来るような場所ではない。来られるのは地元の子供たちか、車に乗った大人たちだけだろう。地元の子供たちは都会の大人たちよりもずっと物知りだ。こんな小さなメクレを徹底的に剥がすような馬鹿げた真似は絶対にしない。

俺がこの行為に無性に怒りが込み上げて来るのは、ここが期待の持てる素晴らしい場所だからじゃない。ここよりも数十倍良い環境で、数百倍魅力的なクヌギを破壊されたこともあるが、諦めと云うか脱力感はあっても、今ほどの怒りは湧いて来なかった。
こんな風な気持ちが襲ってくるのは、おそらくここが、全くとるに足らない場所だからなのだろう。地元の子供らが、通りすがりにコクワやノコやカブトが樹皮に張りついているのを時折見かける程度の他愛のない場所。同じような習性のミヤマもまれには採れたかも知れない。それで十分の場所だ。
少なくとも、よそ者がやって来て小さなメクレを破壊して得られるものなど何一つない。
この樹の樹液は涸れ、もはやカブ・ノコさえ寄り付くことはないだろう。その密かな楽しみを永久に奪う権利を誰が有していると云うのか?

無知が引き起こしたのなら、覚えて欲しい。無恥が引き起こしたのならプライドを持って欲しい。いずれにせよ、こんな卑しい行為にはもううんざりだ。

2006年フィールドノート
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