2005/11/3(木)  晴れ ときどき 曇り

秋も深まり、新しいカブクワポイント探しを始めることにした。とは云っても谷津の里山にはまだまだ魅力的な生き物たちが可憐な姿を見せてくれている。
メクレクヌギを探すことだけを目的に黙々と歩くのは惜しい季節だ。。。結局、地形図とにらめっこしながら両方が楽しめそうな場所を選んだ。
さてさて、今日はどんな楽しみが待ち受けてくれているのだろうか。。。?

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千葉県 某所

今日向かった先は、いつものテリトリーからは少し離れた場所だ。最近は平地の雑木林よりも、細かく複雑に入り組んだ谷津とその斜面林に魅力を感じていて、今回もやはりそんな場所。国道から細い農道をずっと進んだ先にある小さな村落だ。ヤマから絞り出される根垂水(ねだれ)を水源とする細い水路と、それを利用する非効率な農作業。人と自然とが少し距離をとり、でもすぐ隣に接しながら生活している姿を眺めるのが、今の俺にとって至福の瞬間なのだ。。。
明るい日差しの下で、細い農道をゆっくりと進む。この辺りも以前は水田あったようだが、今では放棄され、湿地から徐々に乾燥化しているようだ。
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茎を紅色に染めているのはアブラムシの一種。それを狙うナナホシテントウ、さらにそれを守ろうと控える?クロオオアリの姿も見える。 放棄田に侵入したセイタカアワダチソウが、一際明るい黄色の花を咲かせている。ハチやアブをはじめとした多くの昆虫たちが集まっていた。
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こちらはハラナガツチバチ。コガネムシの幼虫などを捕獲し、土中に作った巣の中に運び入れて卵を産みつけると云うが、もうその役目を終えて余生を楽しんでいるように見える。 オレンジと黒の鮮やかな幾何学模様を見せているのはヒメジュウジナガカメムシ。カメムシは植物の汁を吸うと聞くが、蜜や花粉も食するのだろうか?
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谷津では、放棄された水田は湿地化し、まずはアシ原になることが多い。この後もう少し乾燥化が進むとススキなどの草原に、やがてはヤナギやアカメガシワなどの木本の優先する場所に移り変わってゆく。 放棄田に土を盛り、畑化してスギの苗を植えたものと思われる。商品作物を植えて手入れすることもままならず、こうして手のかからない苗を植えることも多いと聞く。
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乾燥化が進んだ草原には、アシを押しのけてセイタカアワダチソウがはびこっている。ワレモコウの花も少々肩身が狭そうだ。。。
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農道の反対側には谷津の斜面林が迫り、その裾をマント植物群と呼ばれる好日性のツル植物が覆っていた。カラスウリやミツバアケビ・ヤマノイモ・ヤブカラシ・ノブドウなどが互いに絡み合って生存競争を繰り広げているのだろう。
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やがてたどり着いた先には、はたして予想していた通りの美しい谷津田が広がっていた。自然の水路の奥、左側にはアシやススキの繁る小さな茅場が、右の奥には狭い棚田が見える。 棚田の奥からの景色。斜面を利用して作られた1枚1枚が小さな面積の田圃が連なる。この背後には、クリやコナラを主体とした斜面林が迫っている。
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水路脇にあったノハナショウブの仲間と思われる大きな株。 地味な色合いのがっしりした体格のオツネントンボ(イトトンボノ一種)。成虫のまま年を越すことから「越年⇒オツネン」と呼ばれるらしい。体色は冬の枯れ草の保護色?
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いまだ水の残る水田には、連結したアキアカネが無数に群がって産卵行動を取っていた。水のない泥の中にさえメスが腹を差し込んで産んでいる。これら打水産卵・打泥産卵によって晩秋に産み付けられた卵は、そのまま乾燥にも耐えて越冬し、来春、水田に水が張られる頃に孵化する。
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ふと草むらを見ると連結しているオオアオイトトンボを見つけた。天竺でもお馴染みのイトトンボだが、彼らの産卵は一風変わっていることで有名。なんと水田や池などの上に張り出した樹木の枝に卵を産みつけるのだ。もしや!?と見上げると、はたして頭上2mで1組のペアが産卵の真っ最中だ。ピント合わせに手間取るうちに止めてしまったが、貴重なシーンを観察することが出来た。樹皮に産み付けられた卵はそのまま越冬し、水田に水が張られる来春、孵化して水中に落ちてくる。人の営みを信じて子らの命を託す彼らの健気さに、ちょっと胸が熱くなる思いがした。
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明るい陽射しを浴びるヒメジャノメ。凛と胸を張る姿が美しい。 よく見れば、翅は鱗粉を失い傷みが激しい。残り少ない命を誇り高く生きるさまも、なお美しい。。。
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傍らには見慣れたヤマトシジミのペア。上にいるのが秋型で青みのさすメス、下から交尾を迫る明るい色の個体がオスだ。普段は気にも留めない小さなチョウたちも、それぞれの命の営みを演じていることを忘れてはならない。 秋にお似合いの紅色の装いも鮮やかなベニシジミ。夏の高温期に出現する個体は翅の表が黒ずむが、秋も深まり、春に見かけるような美しい色になっていた。
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モンキチョウも、ずいぶん傷んできている。 このジョロウグモも、秋に産卵をして短い一生を終える運命にある。
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アザミの花を盛んに訪れていたトラマルハナバチ。季節ごとに概ね決まった種類の花を訪れる習性のあるハナバチの仲間は、植物にとって受粉のためのありがたい存在。多くの野草にとってなくてはならない存在だ。なかにはツリフネソウのように受粉にハナバチの訪花が不可欠な形状に花の形を進化させたと云われているものさえある。舌が長いため、大きな体の割には蜜源の深い(細長い)花や小さな花からも蜜が吸える。体を覆う密な毛も花粉の媒介に一役買っているのだろう。
また、ネズミやモグラなどの巣を利用し土中に作った巣で集団生活を送ることから、自らも多様性に富んだ生物環境でしか生きられず、今、盛んに注目を集めている昆虫でもある。
ちなみに、環境省の専門家会合は2005年12月19日の会合で、トマト農家などがハウス内の受粉に利用してきた外来のセイヨウオオマルハナバチに対して、特定外来生物に指定する方針を決めたようだ。
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ハラナガツチバチがノハラアザミにも来ていた。 こちらはモンキチョウ。
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さまざまな昆虫たちに蜜を与えた見返りに花粉の媒介をしてもらったアザミは、やがてこんな実を付けて風に放つ。秋の野原にごく当たり前に生えているアザミだが、種子については見過ごされていることが多いのではないだろうか?
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谷津の最奥部の畦がひどく掘り返されていた。残された足跡から、どうやらここでも犯人はイノシシのようだ。
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こんもりとヤブ状に繁っていたのは、イボタノキ。枝いっぱいに黒紫色の実をつけていた。香り高い白い花をつける5〜6月上旬にまた訪れみよう。多くの訪花性の虫たちに混じって、幼虫がイボタを食草とするウラゴマダラシジミが見つかるかもしれない。 少し青く写りすぎているがヤマハッカ。本当はもっと赤味のある紫色。この花にもチョウやハチがよく訪れる。
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すらりとした清楚な花姿をみせているのはツリガネニンジン。女性的で優しい印象の花だ。谷津田周辺にある手入れの行き届いた草原でよく見かけることができる。
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たわわに実るカキノキ、向かい側には草刈の行き届いた斜面。ここでは昔ながらの人の生活のあり方が残っているのだろう。
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斜面からこぼれるように咲いている端正な花型のリュウノウギクやリンドウに心が和む。
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チャノキの花もちょうど今が盛りだ。樹液も涸れ、訪れる花の少ない季節に咲く花は、キイロスズメバチにとっても貴重な蜜源なのだろう。
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カラスウリとからみつくように繁茂し、紅紫の実をつけているのはムベ。アケビにも似るが、実は裂けることはなく、また冬でも葉を落すことのない常緑樹だ。 さて、これは何の実?マメ科のノササゲ。夏の終わりに黄色い蝶形の花を咲かせるツル性の多年草だ。
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夏の間は全く気に留められることのないイネ科の雑草が、草紅葉(くさもみじ)で草原を美しく染めていた。カゼクサ?ヒメアブラススキ?思いがけない秋の姿にちょっと得をした気分(^^)v
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ススキやセイタカアワダチソウの繁茂する荒地のヘリに、なんと絶滅を危惧されるタコノアシを発見。ずっと見渡したが生えているのはこの株だけのようだった。元々湿地に群生する多年草だが、近年は絶滅の危機に瀕しているという。この場所も既に乾燥化が進み、消え行く運命は避けられないのだろう。

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さて、今日のもうひとつの目的である雑木林の探索の方は、見事に裏切られた。地形図では台地上の平らな広葉樹林とされていたのだが、樹齢20年ほどのスギの植林に変わっていた。ところどころに残されたかつての雑木林の名残りであるクヌギも、太さ・高さこそあるが、肝心のメクレとは程遠いもの(-_-;) 「一粒で二度美味しい里山」と云う訳にはいかなかった。。。日も暮れたことだ。今日は引き下がることにしよう。。。
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今日訪れたのは、昔ながらの手入れの行き届いた谷津田と、放棄され乾燥化が進む休耕田がグラデーションのように連続している興味深い場所だった。荒れ放題の国道沿いから歩きはじめ、次第に色濃くなってゆく生き物たちの影。たどり着いた先にあった、ひっそりとした農村の生活。
こういった場所では、まず先に雑木林が放棄される。電気・ガスが通り、化学肥料が利用される今、かつて雑木林が担っていた経済的な役割は終わったのかも知れない。しかしそこに息づく生き物たちの命の価値が失われた訳ではない。生物の多様性・都会生活者の安らぎ・子供たちへの環境教育・・・雑木林の新しい価値と役割を模索するべき時に差し掛かっているのだろう。

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